初めてのフルマラソンまであと1週間。カレンダーを見るたびに、
「あと1週間しかない。。。」
「まだ走り足りない気がする……」
「最後に20 km走っておかないと、完走できないんじゃないか?」
こんな焦りに襲われていませんか?
その気持ち、痛いほどよくわかります。しかし、ここではっきりとお伝えしなければならない残酷な真実があります。
それは、「マラソン1週間前にジタバタしても走力は突然伸びるものではない」ということです。さらに、「焦って間違った行動をすれば、実力が十分に発揮できないのみならず、最悪の場合、ケガをしたり、体調を崩してしまう」というリスクまであります。
多くの真面目なランナーが、直前の「不安による走りすぎ(パニック・トレーニング)」や「間違った調整」によって、スタートラインに立つ前に自滅しています。
逆に言えば、この1週間の過ごし方を変えるだけで、あなたのタイムは確実に速くなります。
スポーツ生理学の世界には、「レース直前に練習量を意図的に減らすことで、蓄積した疲労を抜き、パフォーマンスを最大化させる調整法」である「テーパリング(Tapering)」という概念があります。
適切なテーパリングを行うことで、パフォーマンスは約3
この記事では、数多くの市民ランナーが陥りがちな「1週間前の5つの落とし穴」と、その科学的な回避策を徹底解説します。 【この記事はこんな方におすすめ】 【この記事を最後まで読むとわかること】 さあ、不安を「自信」に変えるための最後の調整を始めましょう。 長距離走(いわゆる「距離走」)は、フルマラソン練習で最も重要なトレーニングです。効果的な長距離走の実践は、様々なメリットがあります。 効果的な長距離走のメリットの例 そんなフルマラソンに向けた最強練習である距離走ですが、レースが間近に迫った時期における長距離走の実施には注意が必要です。 「最後にもう一度、長い距離を走って自信をつけたい」 この気持ちは痛いほどわかります。しかし、フルマラソン1週間前に20 kmを超えるような長距離走を行うことは、「百害あって一利なし」と言っても過言ではありません。 理由はシンプルです。トレーニングによる「筋肉の損傷の回復」と「エネルギーの回復」が、本番までに間に合わないからです。 長距離を走ると、どんなペースであったとしても、筋肉の繊維には微細な損傷(マイクロトラウマ)が発生します。これが修復される過程で筋肉は強くなりますが、この完全回復には数日から2週間程度かかるとされています。 つまり、レース1週間前に強度の高い長距離走を実施し、筋肉を壊してしまうと、当日までに修復が完了せず、傷ついたエンジンのままスタートラインに立つことになってしまうのです。 一方で、練習量を落とすこと(テーパリング)の効果は科学的に証明されています。 スポーツ生理学の研究レビュー(Mujika & Padilla 2003)によると、レース前の7〜21日間でトレーニング負荷を適切に減少させることで、以下の生理学的適応が起こると報告されています。 同研究では、「トレーニング強度(ペース)は維持したまま、総走行距離(ボリューム)を41〜60
では、具体的にどれくらい走ればいいのでしょうか? 初心者の場合、「ピーク時の走行距離の40〜60
「全く走らない」と体や感覚が鈍る場合は、短い距離(3~5 km程度)をレースペースか少し速いペースで走る「刺激入れ」を行いましょう。 ポイントは、ダラダラと長く走るのではなく、「短く、キビキビと」終わらせて、普段トレーニングに費やしている余った時間を睡眠やケアに充てることが正解です。 新しいシューズやウェアはマラソンへの大きなモチベーションになります。憧れのシューズやお気に入りのウェアを着用することによる、機能的サポート、メンタル的効果は多大なものです。 しかし、当日まで使った事のないギアの使用には注意が必要です。 大規模なマラソン大会では、前日や当日の受付会場(EXPO)では、各メーカーの最新シューズや限定Tシャツがお手頃価格でいち早く入手可能であり、気分が高揚してつい買ってしまうことがあります。 「新作の高性能シューズなら、もっと速く走れるかもしれない!」 そう思うのは当然ですが、買ったばかりのギアを本番でいきなり使うのは「ギャンブル」そのものです。 アメリカのランニング界には “Nothing New on Race Day”(レース当日に新しいことは何もしない)という有名な格言があります。 新品のシューズは、まだ素材が硬く、足の形に馴染んでいません。わずかな硬さや縫い目の当たり方の違いが、42.195 kmという長距離・長時間の反復運動の中では、以下のような深刻なトラブルを引き起こします。 シューズだけでなく、ウェアや靴下も同様です。 これらは、一度洗濯をして生地を柔らかくしたり、試走で確認したりしなければ防げません。また、例え着馴れたウェアや靴下でも、42.195 kmという長時間の旅の中では予期せぬトラブルが起こることがありますので、ワセリンやニップレス、絆創膏などでの対策が必須となります。 本番で使うシューズは、最低でも2〜3回、合計30 km以上は試走したものを選んでください。 「少し汚れているくらいの履き慣れたシューズ」こそが、あなたの足の癖を知り尽くした最高の相棒です。 もしEXPOで運命のシューズに出会ってしまったら? それは「完走した自分へのご褒美」として購入し、レース後の楽しみに取っておきましょう。 フルマラソンの世界では、まことしやかに語られる定説があります。 こうした情報の断片を鵜呑みにして、「マラソン前は炭水化物をたくさん食べなきゃ!」「少しでも軽くしなきゃ!」と、直前になって極端な行動に出ていませんか? 雑誌やネット記事の影響で、いきなり食事量を増やしたり、普段食べないパスタやお餅を大量に詰め込む。あるいは逆に、減量のために食事を抜く。 これらは非常に危険です。 トップアスリートが行う古典的なカーボローディング(一度体内の糖質を枯渇させてからリバウンドで貯め込む方法)は、極めて高度な管理が必要であり、初心者が安易に真似をすると失敗するリスクが非常に高いのです。 カーボローディングでは特別なメニューにする必要はありません。以下の3つのルールを守るだけで十分です。 走る以外の様々なケアやトレーニングも走力向上には重要です。レースが近付くと、 などといった情報を得て、そのトレーニングを突然始める方が多くいます。しかし、トレーニングは、継続的なコツコツした積み重ねで初めて効果が出るものです。直前になって得た断片的な知識や、ネットやYouTubeなどに溢れる「すぐ効果がある」といった甘い言葉に踊らされて、慣れないことを急に行うのは大きなリスクです。 「疲労を完全に抜きたいから、強めに揉んでもらおう」と考えて、レース直前に整体やマッサージ店に駆け込むのも同様に危険な場合があります。 1週間前のケアは、筋肉をほぐすことよりも「血流を良くすること」を目的にしましょう。 「本番は早いから、今週は20時に寝よう」 「今日から一滴もお酒は飲まない!」 真面目な人ほど、このように生活を一変させようとしますが、これは逆効果になることが多いです。 この記事では、フルマラソン1週間前にNGな行動5選をご紹介しました。 マラソン1週間前において最も重要なのは、「何かを足す」ことではなく「余計なことをしない(引き算)」勇気です。 最後に、本記事で紹介した「5つのNG行動」と「正しいアクション」を再確認しましょう。 ここまで記事を読んでいるあなたは、すでに「準備不足」ではありません。自分の体と向き合い、情報を集め、万全を期そうとする姿勢こそが、完走への何よりの切符です。 スタートラインに立った時、あなたが感じるべきは「もっと練習したかったな」という不安ではありません。 しっかりとテーパリングを行い、疲労が抜け、エネルギーが満ち溢れた体で感じる「早く走りだしたい!」という高揚感です。 これまで積み重ねてきた練習と、使い慣れたシューズ、そして休養十分な自分の体を信じてください。 42.195 kmの旅路が、あなたにとって素晴らしい体験になることを心から応援しています!
NG行動①:不安に負けて「長距離走(20 km走など)」をしてしまう

なぜ「直前の長距離走」がNGなのか?
「休むこと」こそが最強のトレーニング
筋肉を動かすガソリンのような役割を果たすグリコーゲンの貯蔵量が満タンになる。
エネルギーを生み出す酵素の働きが良くなる。
酸素運搬能力が最適化される。具体的な対策例:1週間前の走行距離は「ピーク時の半分」でいい
NG行動②:新品の「シューズ・ウェア」を当日いきなり投入する

「Nothing New on Race Day」の鉄則
靴擦れ、マメ、水膨れ。
ソールの厚さや硬さが変わることで着地のバランスが微妙に狂い、膝や股関節への予期せぬ負担となる。ウェアや靴下も要注意
新品のウェアのタグが擦れて出血する。
股擦れや乳首からの出血(男性に多いトラブル)。具体的な対策例:「ボロボロの相棒」が一番信頼できる
NG行動③:極端な「カーボローディング」や食事制限を行う

なぜ「極端な食事変更」がNGなのか?
慣れない大量の炭水化物は胃腸に負担をかけ、当日の下痢や腹痛の原因になります。
グリコーゲン(糖質)は、体内に貯蔵される際に水分と結びつく性質があります。
具体的な対策例:「いつもの食事+おにぎり1個」が正解
おかず(脂質・タンパク質)を少し減らし、その分ご飯(炭水化物)を増やす。目安は「毎食おにぎり1個分」の炭水化物追加です。
3日前からは、刺身などの生もの(食あたり防止)と、根菜・海藻などの食物繊維(ガス溜まり・便意誘発防止)を控え、消化の良いうどんや白米中心にします。
食事と一緒に水分をこまめに摂り、体内のタンクを水で満たします。
NG行動④:「強めのマッサージ・ストレッチ」を急に行う

なぜ「強刺激」がNGなのか?
慣れていない強さで筋肉を圧迫すると、筋繊維が傷つき、翌日に激しい痛み(揉み返し)が出ることがあります。これは実質的に筋肉痛と同じ状態です。
筋肉には適度な「張り(緊張)」が必要です。これが着地の衝撃を反発力に変える「バネ」の役割を果たします。緩めすぎると、地面からの反発をもらえず、逆に足が重く感じてしまうことがあります。具体的な対策例:「愛撫する程度」のセルフケアで十分
お風呂上がりなどに、クリームを使って皮膚をさする程度、あるいは「愛撫する程度」の優しさで行います。手軽に使えるマッサージガンもおすすめですが、強く押し当てすぎないように注意しましょう。
必ず「○日後にフルマラソンを走る」と伝え、「調整・リラクゼーション目的」であることを明確にしましょう。
NG行動⑤:生活リズムを無理やり変える(寝溜め・禁酒のストレス)

なぜ「リズム変更」がNGなのか?
急に就寝時間を早めても、体内時計はすぐには適応できません。結局眠れずに布団の中で焦り、ストレスが溜まるだけです。
毎晩の晩酌がリラックスタイムだった人が急に禁酒すると、精神的なストレス増大に繋がります。ストレスは免疫力を下げ、風邪のリスクを高めます。具体的な対策例:「いつも通り」が最強のコンディション
無理に早く寝るより、「起きる時間」を当日に合わせることから始めましょう。朝型の生活に少しずつシフトするのは有効です。
前日と当日は控えるべき(脱水作用があるため)ですが、1週間前から完全に断つ必要はありません。「乾杯のビール1杯だけ」など量を決めて、ストレスを溜めないことを優先してください。
まとめ:初フルマラソン1週間前の過ごし方 – 5つのNG行動を回避して笑顔の完走を!

NG行動 おすすめ行動 ① 不安に負けて長距離走をする 走行距離をピーク時の半分に落とす(休むことで筋肉とエネルギーを回復させる) ② 新品のシューズ・ウェアを使う 「ボロボロの相棒(履き慣れた靴)」を使う(トラブル防止の鉄則 “Nothing New on Race Day”) ③ 極端なカーボローディング 「いつもの食事+おにぎり1個」(消化の良いものでグリコーゲンを満タンにする) ④ 強めのマッサージ・ストレッチ 「愛撫する程度」のセルフケア(血流を良くし、筋肉のバネを残す) ⑤ 生活リズムを急に変える 「いつも通り」に過ごす(心身のストレスを最小限にし、起床時間だけ調整する) あなたの準備はできています
引用・参考文献