東京マラソンや大阪マラソンなどのフルマラソン大会への当選、おめでとうございます!
喜びも束の間、カレンダーを見て青ざめていませんか?「あと3ヶ月しかない。今から走り込んで間に合うのか?」と。
焦る気持ちは痛いほど分かります。しかし、その焦りからいきなり「走る練習」を始めることこそが、完走を阻む最大の落とし穴です。
なぜ、多くの大会募集は「半年前」などの早い時期に申し込みが締め切られてしまうのか?これは事務的な理由だけではありません。スポーツ医学的にも、明確な理由があります。
それは、「運動していない人の身体が、42.195 kmの負荷に適応するには最低6ヶ月程度かかる」という事実です。
心肺機能や筋肉は比較的早く成長します。しかし、アキレス腱や膝などの「結合組織」は代謝が遅く、強度が増すまでに長い時間を要することが研究で示されています(Bohm et al. 2015)。 つまり例えば、筋肉は2ヶ月で走れるようになっても、関節はまだ準備できていないのです。
この「タイムラグ」を無視して、残り3ヶ月からいきなり通常のランニングを始めればどうなるかというと、着地衝撃の連続により、高い確率で膝や足首を壊し、スタートラインに立つことさえ危うくなるでしょう(Nielsen et al. 2014)。
そこで注目すべきトレーニングとして、関節への負荷を最小限に抑えつつ、走るための動きを脳に刷り込む「フォーム矯正ウォーキング」があります。
本記事では、正しい「歩き」を通じて、トップ選手のような「お尻と股関節を使った衝撃吸収」をマスターする方法を解説します。3ヶ月後の本番、あなたが「歩かずに笑顔で完走する」ための逆転メソッド。ぜひ最後までお付き合いください。
この記事を読むと分かること
- なぜ初心者が「走る練習」から入ると99パーセント失敗するのか
- 膝を痛めない「プロの歩き方(フォーム矯正)」の具体的なやり方
- 運動経験ゼロから3ヶ月で仕上げる「週単位のトレーニングメニュー」
この記事の対象読者
- フルマラソンに当選したが、練習期間が3〜4ヶ月しかない方
- 普段の運動習慣がなく、いきなり走ることに不安がある方
- 練習で少し走っただけで、膝や足首に痛みを感じている方
- 「完走」が目標だが、できれば「歩かずにゴール」して達成感を味わいたい方
なぜ大会3ヶ月前の初心者は「走る練習」をしてはいけないのか?

「フルマラソンを走るのだから、毎日走らなければならない」
多くの初心者が抱きがちなこの思い込みには、注意が必要です。特に本番まで残り3ヶ月という限られた期間において、無計画なランニングはトレーニング効果を得るどころか、怪我のリスクを高める結果になりかねません。
ここでは、なぜ焦って「走ってはいけない」のか、その理由を根性論ではなく、身体の構造や生理学的な適応速度の違いという観点から解説します。
大会募集が「半年前」である医学的な理由
多くのフルマラソン大会のエントリーが、本番の約6ヶ月前に開始、あるいは締め切られる理由について考えたことはあるでしょうか。もちろん、大規模な交通規制や運営上の準備といった事務的な事情も大きく関係しています。
しかし、スポーツ医学の知見に照らし合わせると、この「6ヶ月」という期間は、人間の身体構造が長距離走に適応するために必要な期間と非常に高い相関があることが分かります。私たちの身体は、トレーニングの負荷に対して組織ごとに異なるスピードで成長(適応)していくからです。
- 心肺機能・筋力:約2〜3ヶ月
- 心臓のポンプ機能や毛細血管の拡張、筋繊維の肥大といった反応は比較的早く現れます。運動生理学の一般論としても、有酸素運動能力(VO2max)はトレーニング開始から8〜12週間程度で顕著な改善が見られるとされています。
- 腱・靭帯・骨:約6ヶ月以上
- 一方で、骨と筋肉を繋ぐ「腱」や、骨同士を繋ぐ「靭帯」などの結合組織は、筋肉に比べて血流が乏しく、代謝が非常に緩やかです。腱の強度が増し、ランニングの反復衝撃に耐えられる構造変化が起きるには、長期的な負荷の継続が必要であり、その期間は最低でも6ヶ月を要することが研究で示唆されています(Bohm et al. 2015)。また、骨の強度が再構築(リモデリング)されるサイクルも、同様に数ヶ月から半年単位の時間を要します(Warden et al. 2014)。
つまり、大会運営側が半年前に募集を開始する背景には、「初心者がゼロから準備を始めても、身体の組織すべてが適応し、安全に完走できるまでの期間」が生物学的に約6ヶ月であるという事情も含まれていると考えられるのです。
3ヶ月前スタートの危険性を知る
では、こうした組織ごとの成長スピードの違いは、残り3ヶ月でトレーニングを開始する初心者にどのような影響をもたらすのでしょうか。
トレーニングを始めると、最初の1〜2ヶ月で心肺機能と筋肉は順調に成長します。「息が上がらなくなった」「脚に筋肉がついた」と実感し、ペースを上げたり、長い距離を走りたくなったりする時期です。
しかし、この時点では、関節(腱や靭帯)の強度はまだスタート時点とほとんど変わっていません。例えるなら、「エンジン(心臓・筋肉)はフェラーリ並みに強化されたのに、車体(関節・骨)は軽自動車のまま」というアンバランスな状態です。
この状態で無理にランニングを続けると、強すぎるエンジンの出力に車体が耐えきれず、膝や足首に過度な負担がかかります。これが、初心者の多くが大会1ヶ月前などに発症する「ランナー膝(腸脛靭帯炎)」や「シンスプリント」といったランニング障害の主な原因となります(Nielsen et al. 2014)。
したがって、残り3ヶ月の時点で取るべき戦略は、「未完成の関節や骨に過度な衝撃を与えず、効率的に走るための身体操作を身につけること」です。そのための有効な手段のひとつが、「ウォーキング」の活用なのです。
走らないトレーニングの重要性
もちろん、最終的には走る練習も必要になりますが、ここで提案するのは「ただの散歩」ではありません。
陸上競技のトップ選手や箱根駅伝のランナーが行う「動き作り(ドリル)」をご存じでしょうか。彼らは練習の際、ゆっくりとした動作で腿(もも)上げを行ったり、スキップのような動きを繰り返したりして、正しい重心移動や接地感覚を脳と神経に刷り込んでいます。
今回提唱する「フォーム矯正ウォーキング」は、このトップ選手が行うドリルを初心者向けに最適化したものと言えます。
- 衝撃は最小限
- 怪我のリスクを抑えられる
- 動作はゆっくり
- 自分のフォームを意識しやすい
- 効果は高い
- 走るために必要な神経回路を養える
いきなり崩れたフォームで走り出すのではなく、まずはウォーキングという「低速ドリル」を通じて、効率的で怪我をしにくい最適な動作を身につける。一見遠回りに見えますが、この手順を踏むことが、結果として完走への近道となるのです。
「散歩」を「トレーニング」に変えるフォーム矯正法

「歩くこと」は、単なる休息や気休めの運動ではありません。特にマラソン完走を目指す初心者にとって、ウォーキングは「正しい身体の使い方」を脳と筋肉にインプットするための、最も安全かつ効果的なドリル(反復練習)となります。
日常の散歩を、完走へ直結する「トレーニング」へと昇華させるための理論と実践法を解説します。
ランニングでの膝痛を防ぐ「お尻」と「股関節」の連動習得
箱根駅伝や世界陸上などのトップランナーの体型を思い出してみてください。彼らの脚は、驚くほどスラッと細く引き締まっています。
「たくさん走っているから細い」と思われがちですが、実は因果関係が逆であることも少なくありません。彼らは、ふくらはぎや太もも(大腿四頭筋)といった小さな筋肉に過度に頼らず、身体の中で最も大きな筋肉である「お尻(大殿筋)」と「股関節まわり」を使って走っているため、末端の筋肉が肥大せず、効率的な推進力を得ているのです。
一方で、初心者の多くは、着地の衝撃を「膝」と「前太もも」で受け止めてしまいがちです。このフォームでは、小さな筋肉がすぐに疲労して痙攣(足攣り)を起こすだけでなく、膝関節への負担が激増し、長距離を走り続けることが物理的に困難になります(Souza & Powers 2009)。
「完走を目指すだけだから、プロのようなフォームは必要ない」と考える方もいるかもしれません。しかし、まだ筋肉や関節が未発達な初心者だからこそ、関節を守るための「効率的なフォーム」が必要です。
いきなりランニングの実践でフォームを修正しようとしても、着地衝撃への恐怖や心拍数の上昇により、冷静な身体操作は困難です。そこで有効なのが、負荷の低いウォーキングの中でのフォーム矯正です。
フォームを意識した「ウォーキングドリル」を積み重ねることで、着地衝撃のリスクを負わずに「お尻で地面を捉える感覚」を脳に刷り込むことができます。同時に、有酸素運動としての基礎的なスタミナ(毛細血管の密度向上など)も養えるため、一石二鳥のトレーニングと言えるでしょう。
実践!ランニングフォームが変わる「フォーム矯正ウォーキング」
では、具体的にどのように歩けばよいのでしょうか。漫然と歩くのではなく、以下の4つのポイントを意識して行うことで、その歩行動作はランニングのフォーム矯正へと変わります。
① 姿勢のセットアップ:頭上吊り下げとドローイング
まずは走りの土台となる正しい姿勢を作ります。頭のてっぺんが天井から糸で吊るされているようなイメージを持ち、背筋をシュッと伸ばします。
ここで特に注意したいのが「首の位置」です。 デスクワークやスマートフォンの長時間使用により、背中が丸まり、首が前に出ている(ストレートネック気味)人が非常に増えています。頭が前に出た姿勢では、約5 kgある頭の重さを支えるために首や肩回りの筋肉が常に緊張し、無駄なエネルギーを消耗してしまいます。さらに、身体の軸がブレるため、地面からの反発(推進力)を効率よく得られなくなってしまいます。顎を軽く引き、耳の横に肩が来る位置を意識しましょう。
次に重要なのが「骨盤」の角度です。 腰を反りすぎず(前傾過多)、丸めすぎず(後傾)、フラットな「ニュートラル」な状態を保ちます。
この姿勢を維持するために、歩き出す前に一度深く息を吐ききり、お腹を凹ませるように力を入れてみてください。これはいわゆる「ドローイング」と呼ばれる動作です。腹圧(IAP)を高めることで体幹が天然のコルセットのように安定し、骨盤を立てたまま脚をスムーズに振り出せるようになります。
② 脚の振り出し:みぞおち始動
脚を前に出す際、膝や足先だけでちょこちょこと動かしていませんか?これでは太ももの前の筋肉ばかりを使ってしまいます。
脚は「股関節」からではなく、さらに上の「みぞおち」から生えているとイメージしてください。みぞおちから脚全体を振り出す意識を持つことで、大腰筋(背骨と脚をつなぐ深層筋肉)が使われ、自然と歩幅が広がり、骨盤が連動して動くようになります。
③ 着地:重心の真下着地
最も重要なのが着地の位置です。足を前に大きく出しすぎて、重心よりも前方にかかとからドスンと着地するのはNGです。これはブレーキ動作となり、膝への衝撃・負担を強めてしまいます(Heiderscheit et al. 2011)。
理想は、体の真下に、足裏全体で優しく着地することです。 「速く走るにはつま先着地(フォアフット)が良い」という情報を目にするかもしれませんが、エリートランナーのレース中の着地を調査した研究でも、実は半数以上がフラット、あるいはかかとからの着地を行っています(Hasegawa et al. 2007)。
重要なのは足の部位ではなく、「体の重心の真下」に置くことです。ペタペタ、バタバタと音をさせず、足裏全体で地面を捉える「忍者のような着地」を目指してください。
④ 上半身のリラックスと腕振り
最後に上半身の脱力です。力みがあるとエネルギーを無駄に消費してしまいます。歩き出す前に一度肩をすくめて、ストンと落とし、首や肩のリラックス状態を作ります。
腕振りは、肘を引くことよりも、「背骨を軸にして肩甲骨を動かす」イメージで行います。肩甲骨が動くと、対角線上の骨盤が自然と前に押し出され、スムーズな重心移動が可能になります。
着地した足に体重が乗り込む瞬間、お尻の筋肉がキュッと締まる感覚があれば正解です。膝を伸ばしきらず、わずかにゆとりを持たせることで、衝撃を筋肉で吸収できます。
これらの動作を繰り返すことで、ランニングに必要な「怪我をしない重心移動」が自然と身についていきます。
【実践】ゼロから完走へ!3ヶ月集中トレーニングメニュー例

理論とフォームを理解したところで、ここからは具体的なスケジュールに入ります。
ポイントは「焦らないこと」です。周りのランナーが速く走っていても気にする必要はありません。あなたは「3ヶ月後の完走」というゴールから逆算された、最も効率的な戦略を実行しているのですから。
1ヶ月目(土台作り):週3回の「矯正ウォーク」とスクワット
最初の1ヶ月は、走りたい気持ちをグッと抑え、徹底的に「壊れない土台(関節と動き)」を作ります。
- 平日のメニュー(週2〜3回):30分「矯正ウォーク」
- わざわざ着替えて練習する時間が取れなくても構いません。通勤や買い物の移動時間をトレーニングに変えましょう。 前述した「頭上吊り下げ」「みぞおち始動」「真下着地」を意識して、普段より少し早歩きで30分間歩きます。
- 週末のメニュー(週1回):60〜80分 LSDウォーク
- 週末は時間を確保し、長い時間をかけてゆっくり動き続ける「LSD(Long Slow Distance)」をウォーキングで行います。 もし余裕があれば、ウォーキングの合間に数分間、非常にゆっくりとしたジョギングを混ぜてみてください。
- 注意点:ここでのジョギングは「走る」というより「ウォーキングの動作を少し速くしたもの」です。絶対にダッシュや、息が上がるペースまで上げてはいけません。公園などで颯爽と走るベテランランナーを見ると、つい自分もペースを上げたくなるものです。しかし、ここで無理をすれば、未発達な関節が悲鳴を上げ、大会参加費をただ運営に寄付するだけの「不参加(DNS)」になりかねません。自分のペースを死守してください。
- 週末は時間を確保し、長い時間をかけてゆっくり動き続ける「LSD(Long Slow Distance)」をウォーキングで行います。 もし余裕があれば、ウォーキングの合間に数分間、非常にゆっくりとしたジョギングを混ぜてみてください。
- 自宅での補強トレーニング:スクワット
- 走れない分、筋肉には別途刺激を入れます。着地衝撃に耐える「大腿四頭筋」と、推進力を生む「大殿筋(お尻の筋肉)」を鍛えるため、スクワットを2日に1回、20回×3セット行いましょう。これが後半の粘りに効いてきます。
2ヶ月目(心肺適応):ギャロウェイ式「Run&Walk」の導入
関節が動きに慣れてきた2ヶ月目は、世界的なランニングコーチ、ジェフ・ギャロウェイ氏が提唱する「Run-Walk-Run」メソッド(ギャロウェイ走法)を導入し、安全に心肺機能を高めます。
- 平日のメニュー:Run 5分 + Walk 2分のセット走
- 「5分ゆっくり走り、疲れる前に2分歩く」を繰り返します。歩きを挟むことで心拍数が落ち着き、フォームが崩れる前に修正が可能になります。合計30分程度から始め徐々に時間を延ばしていきましょう。
- 坂道活用:もし近所に坂道があるなら、「上りは走り、下りは歩く」のが最強の練習です。上りは着地衝撃が少なく安全に心肺を追い込め、走るのに必要な筋力も鍛えられます。その一方で、下りは膝への負担が大きいため歩くことでリスクを回避できます。
- 「5分ゆっくり走り、疲れる前に2分歩く」を繰り返します。歩きを挟むことで心拍数が落ち着き、フォームが崩れる前に修正が可能になります。合計30分程度から始め徐々に時間を延ばしていきましょう。
- 週末のメニュー:90〜120分 LSD(Run&Walk)
- 会話ができる程度のペース(ニコニコペース)で、1時間半〜2時間、体を動かし続けます。 ここでも「走り続ける」ことに固執しないでください。息が上がったりフォームが崩れたりしそうになったら、すぐにウォーキングに切り替えます。 フォームが崩れた状態でのランニングは、百害あって一利なしです。悪い動きを脳が記憶してしまい、怪我のリスクを高めるだけです(Nielsen et al. 2013)。「きれいなフォームで動き続けること」を最優先してください。
3ヶ月目(本番対策):予行演習と「テーパリング」
いよいよ本番直前。ここでは「自信をつけること」と「疲れを抜くこと」の2つを行います。
- 3週間前:3時間の予行演習
- 本番の3週間前(または4週間前)の週末に一度だけ、「3時間」体を動かし続けるリハーサルを行います。距離は気にしなくてOKです。 「3時間動き続けても意外と大丈夫だった」という精神的な自信と、ウェアの擦れやシューズのフィット感、栄養補給を確認するのが目的です。
- 2週間前〜前日:テーパリング(調整期)
- ここからは練習量をガクンと落とし、体に蓄積した疲労を抜き去る「テーパリング」に入ります。適切に疲労を抜くことで、本番当日のパフォーマンスが最大化(超回復)します(Mujika & Padilla 2003)。
- 注意点:完全に練習をゼロにして寝て過ごすのはNGです。神経系が鈍り、体が重くなってしまいます。 通勤時のフォーム意識ウォークは継続しつつ、週に1〜2回、20〜30分程度の軽いジョギングを行い、「動きの感覚」だけは維持し続けてください。
- ここからは練習量をガクンと落とし、体に蓄積した疲労を抜き去る「テーパリング」に入ります。適切に疲労を抜くことで、本番当日のパフォーマンスが最大化(超回復)します(Mujika & Padilla 2003)。
【完走戦略】道具と補給で「身体能力」「練習不足」をカサ増しする

3ヶ月という短期間で挑むあなたにとって、道具(ギア)は単なる飾りではありません。不足している筋力やスタミナを外部から補填してくれる「課金アイテム」であり、完走率を劇的に上げるための投資です。
ここでは、精神論抜きで「物理的に身体を助けてくれる」選び方を解説します。
技術不足・関節への負担軽減はクッション性のある「厚底シューズ」でカバーせよ
昨今のマラソン界は空前の「厚底カーボンシューズ」ブームです。テレビで見るトップ選手は皆、カーボンプレート入りの厚底シューズを履いています。しかし、初心者が厚底カーボンシューズに手を出すのは百害あって一利なしです。
理由は単純な物理法則にあります。カーボンプレートはしなって戻るときの弾性で推進力を生みますが、そのプレートをしならせるには強力な脚力と技術が必要です。 つまり、初心者が履くと単に「硬い板が入った不安定な厚底靴」になります。結果、足首がグラグラと不安定になり、足底筋膜炎や捻挫のリスクを跳ね上げることになります(Hoogkamer et al. 2019)。
憧れのカーボン入りレーシングシューズは、「サブ4(4時間切り)」や「サブ3.5」を達成した時の自分へのご褒美にとっておきましょう。
では今、あなたはどのようなシューズを選ぶべきなのでしょうか。それは、「マックスクッション」と呼ばれるカテゴリーです。これは、「着地衝撃の吸収」に特化したシューズです。ランニングで生じる体重の3倍とも言われる着地衝撃を、あなたの脚の代わりにシューズが吸収してくれます。
初心者におすすめの「脚を守る」厚底モデル4選
各メーカーの技術の粋を集めた、代表的な「守りのシューズ」を厳選しました。足の形は人それぞれですので、必ずスポーツ店で試着をして選んでください。
- HOKA:Bondi 8(ボンダイ 8)
- 対象:膝に不安がある人、体重が少し重めの人。
- 特徴:「マシュマロ」と称される圧倒的なクッション性。靴底が幅広で安定感があり、ただ立っているだけでも楽に感じます。初心者の完走用として不動のNo.1評価を得ています。
- ASICS:NOVABLAST 5(ノヴァブラスト 5)
- 対象:楽しく弾むように走りたい人、デザイン性を重視する人。
- 特徴:トランポリンのような構造で、ポンポンと前に進む感覚が味わえます。クッション性も高いですが、HOKAより反発性(バネ感)があるため、ウォーキングからランニングへ移行する際に「走る楽しさ」を教えてくれる一足です。
- MIZUNO:WAVE SKY 8(ウエーブスカイ 8)
- 対象:日本人の足型にフィットしやすい靴が良い人、柔らかさを求める人。
- 特徴:ミズノ独自の「ミズノエナジー」をふんだんに使用し、まるで空に浮いているような柔らかさを実現。プレートが入っていないため足の屈曲を妨げず、初心者の足裏に非常に優しい設計です。
ガス欠を防ぐ「補給計画」は「距離」ではなく「時間」で管理せよ
フルマラソンでは、一般成人男性で約2,500 kcal以上のエネルギーを消費します。しかし、体内に貯蔵できるグリコーゲン(糖質)は約2,000 kcal程度しかありません(Jeukendrup 2011)。計算上、どうやっても30 km付近でタンクが空になり、体が鉛のように動かなくなる「ハンガーノック(ガス欠)」を引き起こします。
これを防ぐための鉄則は、「距離」ではなく「時間」で補給することです。
よくフルマラソンの補給食は「10 kmごとに1本」というアドバイスを目にしますが、これは10 kmを40分或いはそれ以上に速いペースで走る上級者向けの目安です。初心者が10 kmに70〜80分かけた場合、次の補給までに1時間以上も空いてしまい、その間に血糖値が下がりきって動けなくなってしまい手遅れとなります。
具体的な摂取タイミングの目安
初心者は運動時間が長い分(4時間〜6時間)、基礎代謝による消費も増えるため、上級者よりもこまめな補給が必要です。以下のタイムラインを参考にしてください。
- 携帯するジェルの本数
- 4~5本
- スタート30分前
- ジェルまたはゼリー飲料(アミノ酸入りなど)で満タンにする。
- スタート後 45分〜60分ごと
- ジェルを1本づつ摂取(例:1時間後、2時間後、3時間後…と時計のアラームに合わせて摂るのが確実です)。
エイドステーション(給食)と「水」の戦略的活用
4〜5本のジェルを全て携帯して走るのは重さもストレスになります。また、ジェルは高濃度の糖分であるため、体質によっては水なしで飲むと浸透圧の関係で胃腸トラブルを起こしたり、口の中が甘ったるくて不快になったりする方もいます。 以下のテクニックを使って、賢く補給しましょう。
- 「エイド直前」が補給のベストタイミング
- ジェルを摂取するのは、給水所(エイド)が見えてきた「手前50〜100 m」が正解です。
- まずジェルを飲み込む。ただし、一気に飲もうとするとむせたりする可能性があるので、数回に分けて少しずつ飲みます。
- 開封でベタついた手や、口の中に残った甘みを、直後の給水所の水で洗い流す。
- 胃の中でのジェル濃度を薄め、吸収をスムーズにする。
- この一連の流れをルーティンにすることで、ストレスなく補給できます。
- ジェルを摂取するのは、給水所(エイド)が見えてきた「手前50〜100 m」が正解です。
- 現地の給食を「計算」に入れる
- 大会公式サイトのパンフレットを見て、どの地点に何があるか(バナナ、パン、アンパンなど)を事前に確認しておきましょう。
- ジェル(携帯):即効性が必要な場面や、好きな味でリフレッシュしたい時用。
- エイド食(現地):バナナなどの固形物は消化に時間がかかるため、レース前半〜中盤の「腹持ち」用として活用。
- これらを組み合わせることで、荷物を減らしつつ、十分なエネルギーを確保できます。
- 大会公式サイトのパンフレットを見て、どの地点に何があるか(バナナ、パン、アンパンなど)を事前に確認しておきましょう。
初心者におすすめの補給ジェル3選
味や食感が苦手で飲めないと致命的です。「美味しさ」と「機能」を両立した最新のおすすめを紹介します。尚、本番で初めて飲んで気分が悪くなったりすることを回避するために、事前に試飲・試食も兼ねてジェル補給の練習もしておくと良いでしょう。
- WARABEAT!!(ワラビート) :スッキリ飲みやすい持続性エネルギージェル
- 2025年秋に登場した話題の「次世代わらび餅ジェル」です。従来のジェルのようなドロドロ感がなく、つるんとした「わらび餅」そのものの食感で、水なしでも飲み込みやすいのが最大のメリット。
- 砂糖の約5倍ゆっくり吸収される「パラチノース」を配合しており、エネルギーが長時間持続します。序盤の補給に最適です。
- 「黒糖わらび」と「ゆずわらび」の2つのラインナップがあります。ゆずわらびは、マラソン中に摂取する他のジェルやスポーツドリンクが甘いのに対し、スッキリしたゼリーといった感じでとてもお勧めです。
- オレは摂取す(アミノ酸・鉄分入り) :駅伝強豪校も愛用する信頼のエナジージェル
- アミノ酸含有量が業界トップクラス。
- 鉄分やBCAAが豊富で、筋肉のダメージを軽減します。
- Mag-on(マグオン) :後半戦に欠かせないカフェイン×マグネシウム配合ジェル
- マラソン後半の天敵「足攣り(こむら返り)」を防ぐ水溶性マグネシウムを配合。
- カフェインが含まれています。疲れと眠気が襲ってくる後半に投入し、脳を覚醒させ、脚の痙攣を防ぐ「切り札」として持っておきましょう。
まとめ:フルマラソン3ヶ月練習の成功のカギは「歩き方」にあり

今回は、フルマラソン本番まで残り3ヶ月というタイミングから、初心者が怪我なく、そして歩かず完走を目指すための戦略的練習メニューについて解説しました。
最後に、重要なポイントをおさらいしましょう。
- 焦って走らない
- 腱や関節の適応には医学的に半年かかります。今から闇雲に距離を走っても、怪我のリスクを高めるだけです。
- 急がば回れ
- 「フォーム矯正ウォーキング」で、膝を守るお尻と股関節の使い方をマスターすることが、結果的に最短ルートです。
- 道具と戦略に頼る
- 技術不足は「厚底シューズ」でカバーし、スタミナ不足は「時間管理の補給」と「ギャロウェイ走法」で補います。
「もう3ヶ月しかない」と悲観するのはやめましょう。「3ヶ月かけて、一生モノの正しいフォームを作ればいい」と発想を切り替えてください。
まずは明日の通勤や買い物から、今回紹介したフォーム矯正ウォーキングを試してみてください。その意識的な一歩が、42.195 km先のゴール・完走メダルへの確実な一歩になります。
あなたの挑戦を、心から応援しています!
参考文献
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