「もし、関門の閉鎖時間に間に合わなかったらどうしよう?」
「あの『収容バス』に乗せられるのだけは避けたい……」
マラソン大会のエントリーボタンを押した瞬間から、多くのランナーの頭をよぎるこの不安。初マラソンに挑むビギナーはもちろん、記録を狙うシリアスランナーであっても、不測のトラブルによる途中棄権(DNF:Did Not Finish)の恐怖はつきまとうものです。
そして、「完走できないこと」そのものよりも、実はその後の対応の方がはるかに重大なリスクを孕んでいます。
マラソン中、私たちの体温は運動によって維持されていますが、足を止めた瞬間から急激な体温低下が始まります。特に汗で濡れたウェアを着たまま、寒空の下で収容車を待つ時間は、低体温症のリスクを劇的に高めます。実際、マラソン大会における救護事例の研究においても、レース中の事故だけでなく、ゴール後や運動停止後の体温管理の重要性が指摘されています(Roberts 2007)。
また、昨今の都市型マラソンでの「手荷物預けなし」のルール下では、「棄権=着替えもない状態で放り出される」という、文字通りのサバイバル状態に陥る可能性すらあります。この時、パニックに陥り誤った判断をすることは、命に関わります。
本記事では、マラソン大会における「関門閉鎖・途中棄権」のリアルな現場の流れをシミュレーションし、万が一の際に「心と体を守り、安全に帰還するための生存戦略」を徹底解説します。
これは、最悪の事態を想定し、それを具体的に知ることで漠然とした不安を消し、安心してスタートラインに立つための「お守り」としてお読みください。
この記事を読むと分かること
- 関門閉鎖から収容バス乗車、会場復帰までのリアルなタイムライン
- 「手荷物なし」で棄権した際に、凍えず帰宅するための具体的対策
- 「途中棄権は恥」という思い込みを払拭するメンタルセット
この記事の対象読者
- 初フルマラソン挑戦者
- 完走できるか五分五分で、制限時間が心配な方。
- 都市型マラソン参加者
- 東京マラソンなど「手荷物預けなし」で走る予定の方。
- すべてのランナー
- 怪我や急な体調不良など、万が一のトラブルに備えておきたい方。
マラソンの関門・制限時間に間に合わなかった時の流れ

多くのランナーにとってブラックボックスである「DNF(途中棄権)直後のプロセス」。ここを具体的にイメージできているかどうかで、万が一の際のパニック度合いは大きく変わります。ここでは、関門閉鎖による強制終了と、自らの判断によるリタイア、それぞれのケースについて現場のリアルな流れを解説します。
関門閉鎖の瞬間:ロープ規制やスタッフによる競技中止の宣告
マラソン大会には、交通規制の都合上、数キロごとに「関門(チェックポイント)」が設けられています。この閉鎖時刻は、一般的に1秒の猶予もなく厳格に運用されます。
閉鎖時刻が近づくと、係員が黄色い規制ロープやテープを構えてスタンバイし、メガホンで「あと30秒!」とカウントダウンが始まります。そして時刻になった瞬間、コース上にロープが張られ、ランナーの走路は物理的に遮断されます。
「あと5メートルなのに!」は通用しない
たとえ目の前に関門の計測マットが見えていても、ロープの外側にいればその時点で競技終了です。スタッフから「ここで終了です。歩道に上がってください」と宣告されます。
この瞬間、悔しさや情けなさ、安堵感が入り混じった複雑な感情に襲われますが、まずはスタッフの指示に従い、速やかに走路(車道)を空けることが最優先です。交通規制解除の車列(パトカーや規制解除車)がすぐ後ろに迫っているからです。
もう走れない…自らの判断での途中棄権の流れ
関門の閉鎖時刻とは関係なく、肉離れや急激な体調不良、あるいは深刻な練習不足により、自らの意思で足を止めざるを得ないケースもあります。この場合、ランナー自身が安全確保のために動く必要があります。
- 安全地帯への退避
- 急に立ち止まったり座り込んだりすると、後続のランナーと接触する危険があります。必ずコースの端、あるいは歩道などの安全な場所へ移動してから停止してください。
- 意思表示と救護要請
- 近くに走路員(ボランティアスタッフなど)がいれば、大きくバツ印を出すなどして棄権の意思を伝えます。
- 自力移動ができない場合:周囲のランナーや沿道の観客に助けを求め、スタッフを呼んでもらってください。
- 医療的緊急事態の場合:コース上を巡回している「メディカルランナー(ビブスを着用した医師や救命士)」や、AED隊に助けを求めます。
- 近くに走路員(ボランティアスタッフなど)がいれば、大きくバツ印を出すなどして棄権の意思を伝えます。
特に、低体温症や熱中症の初期症状がある場合、判断能力が低下していることがあります(Cheuvront et al. 2010)。「少し休めば行けるかも」という迷いが命取りになることもあるため、異変を感じたら早めにスタッフにコンタクトを取ることが重要です。
チップ回収と収容バスへの誘導
競技終了・途中棄権が確定すると、その場で、あるいはバスへの誘導中に、ゼッケンやシューズに装着されている「計測チップ(RSタグ等)」の回収などが行われます。
- チップの扱い
- 多くの大会でチップはリユースされており、未返却の場合は数千円(多くの大会で2,000円程度)の実費請求が来る場合があります。近年は返却不要の使い捨てチップも増えていますが、スタッフの指示に従いましょう。
- 収容バスへの移動
- 関門閉鎖の場合は、その場に待機しているバスに乗車します。コース途中でリタイアした場合は、最寄りの関門か、収容バスが巡回してくるピックアップポイントまで移動(あるいは待機)する必要があります。
コース途中でのリタイアの場合、収容バスが到着するまで30分〜1時間以上待たされることも珍しくありません。
注意:公共交通機関で帰る場合
東京マラソンや大阪マラソンなどの都市型大会では、地下鉄の駅が近くにある場合、「バスを待たずに自力でゴールへ向かいたい」と思うかもしれません。 その場合も、必ず近くのスタッフにその旨を伝え、計測チップの処理や棄権手続きを完了させてから移動してください。無断でコースを外れると、大会本部が行方不明者として捜索する事態になりかねません。
ゴール会場への搬送と手荷物受け取りまでのタイムラグ
収容バスは、タクシーのように目的地へ直行してくれるわけではありません。基本的には交通規制の解除に合わせてゆっくりと移動します。また、定員になるまで発車しないケースや、複数の関門を経由してランナーを拾っていくケースが一般的です。
- 車内の環境
- 暖房が効いていることが多いですが、満席の場合は補助席利用や立席になることもあります。汗の臭いや湿気がこもり、沈黙が支配する独特の雰囲気となります。
- 降車場所の罠
- バスは「手荷物受取所の目の前」には着きません。会場の裏手や、少し離れた駐車場などで降ろされることが多く、そこから手荷物エリアまでさらに15分〜20分歩くこともあります。
つまり、「走るのを止めてから、乾いた服(手荷物)を手にするまで、2時間以上かかる」という事態は十分に起こり得ます。この間の体温低下を防ぐ対策こそが、次章で解説する「対策」の要となります。
【要注意】途中棄権で最も恐ろしい「低体温症」のリスクと対策

途中棄権(DNF)を選択したランナーが直面する最大の物理的脅威は、疲労でも筋肉痛でもなく「低体温症」です。
レース中は気にならない気温であっても、運動を停止した人体にとっては過酷な環境へと一変します。ここでは、なぜDNF直後にリスクが高まるのか、そのメカニズムと具体的な対策を解説します。
運動停止後の「汗冷え」は命に関わる
日本の主要なフルマラソン大会の多くは、10月から3月にかけての気温が低い時期に開催されます。低温環境は運動中に発生する熱を効率よく逃がすため、長距離走にとっては好条件ですが、それはあくまで「走り続けている(熱産生が続いている)」ことが前提です。
運動を停止すると、筋肉による熱産生は急速に低下します。一方で、全身を濡らしている汗や雨は、気化熱によって体表から熱を奪い続けます。加えて、寒風に晒されることで体感温度はさらに下がります。この熱産生と熱損失のバランス崩壊が、短時間で深部体温を低下させ、低体温症を引き起こします(Castellani et al. 2006)。
自分で危険性を判断するためのチェックポイント
低体温症は進行すると判断能力が鈍るため、初期段階での自覚が不可欠です。
- 激しい震え(シバリング)
- 身体が熱を作ろうとする防御反応です。まだエネルギーが残っていれば震えることができますが、これが「止まらない」状態は警告信号です。
- 震えが消失する
- さらに体温が下がると、逆に震えが止まります。これは回復ではなく、身体機能が維持できなくなっている重篤なサインです。
- 手足の協調運動障害
- 指先がうまく動かせない、ジッパーが閉められないといった症状が現れます。
- 意識の変容
- ぼんやりする、つじつまの合わないことを話す状態です。
注意:夏でも低体温症のリスクはある
「低体温症は冬のもの」という認識は誤りです。夏場であっても、雨天で長時間濡れた状態が続き、そこに風が吹けば気化熱によって体温は奪われます。特にエネルギーが枯渇(ハンガーノック)している状態では体温維持機能が低下しているため、季節を問わず警戒が必要です。
最低限持っておきたい「DNF対策」ポーチ・ポケットの中身
以下のアイテムをウェアのポケットやウエストポーチに携帯することを強く推奨します。
- サバイバルシート(アルミブランケット)またはゴミ袋
- 軽量でかさばらない最強の防寒具です。風を遮断し、体温を逃がさない層を作ります。45リットル以上のゴミ袋に頭と腕を通す穴を開けたものでも代用可能です。
- 軽量でかさばらない最強の防寒具です。風を遮断し、体温を逃がさない層を作ります。45リットル以上のゴミ袋に頭と腕を通す穴を開けたものでも代用可能です。
- 小銭(500円程度)
- コース近くに自動販売機やコンビニがある場合、温かい飲み物を購入することで深部体温の低下を防げます。電子マネーが使えない自販機も多いため、現金の携帯が確実です。コインを揺れずに運べるカード型のコインホルダーの活用がおすすめです。
- コース近くに自動販売機やコンビニがある場合、温かい飲み物を購入することで深部体温の低下を防げます。電子マネーが使えない自販機も多いため、現金の携帯が確実です。コインを揺れずに運べるカード型のコインホルダーの活用がおすすめです。
- エマージェンシーカード
- 多くの大会で、ゼッケンの裏面に緊急連絡先や既往歴を記入する欄があります。意識を失った際、医療スタッフにとって唯一の情報源となるため、必ず記入してください。
スタート前の防寒グッズを「捨てない」という最適解
スタート前の整列時、寒さを凌ぐためにサバイバルシートやビニールポンチョを着用するランナーは多く見られます。しかし、号砲とともにそれらを沿道へ投げ捨てる行為は、マナー違反であるだけでなく、最大のリスク管理放棄でもあります。
使い捨てカイロや防寒ビニールは、体が温まったら丁寧にたたみ、ポケットやポーチに収納してください。わずか数十グラムの重量ですし、タイムへのロスも微々たるものです。そして、それが万が一途中棄権せざるを得なくなった時、命を守る重要な装備へと変わります。「ゴミを出さないマナー」と「緊急時の生存戦略」の2つを両立させることこそ、成熟したランナーの流儀です。
マラソンの途中棄権(DNF)は恥ずかしいことなのか?

検索窓に「マラソン 途中棄権」と入力すると、予測変換の上位に「恥ずかしい」という言葉が現れます。多くのランナーが、完走できなかった事実を他者の目線を通してネガティブに捉えている証拠です。
しかし、途中棄権は恥ずべきことではありません。
マラソンにおいて最も恥ずべき行為があるとすれば、それは「リタイアすること」ではなく、「客観的な限界を無視して走り続け、結果として重大な事故を引き起こすこと」です。ここでは、DNFを正しく捉え直すための視点を提示します。
完走至上主義の誤解と「勇気ある撤退」
日本の市民マラソン界には「這ってでもゴールする」ことを美徳とする精神論が根強く残っています。しかし、これは危険な誤解です。
トップアスリートの世界において、DNF(Did Not Finish)は「敗北」ではなく、将来の選手生命や次のレースを守るための「戦略的撤退」と見なされます。実際に、過酷な気象条件下で行われる世界選手権やオリンピックのマラソン競技では、出走者の20〜30
また、医学的な観点からも、限界を超えた運動の継続は推奨されません。マラソン中の心停止や重篤な事故は、レース後半の疲労困憊時にリスクが高まることが報告されています(Kim et al. 2012)。 身体からのSOS(痛みやめまい)を無視して走り続け、コース上で倒れて救急車を呼ぶ事態になれば、大会運営や医療リソースに多大な負荷をかけることになります。
最悪の事態になる前に自ら足を止める決断をしたあなたは、自身の命と大会の安全を守る、賢明なリスクマネジメントを行ったと言えるのです。
収容バスの中の雰囲気は「お通夜」ではない
関門に間に合わなかったランナーを回収するバスに対し、「お通夜状態」を想像して恐怖心を抱く方は少なくありません。
しかし、実際の収容バスの中は、意外にもサバサバとした空気が流れています。 もちろん悔しさはありますが、それ以上に「もう走らなくていいんだ」という安堵感や、過酷な条件(暑さや強風など)に挑んだ者同士の「同志感」が生まれる場所でもあります。
- 「あの坂、きつかったですよね」と隣の人と談笑が始まる。
- 配られたパンやおにぎりを食べてエネルギー補給に勤しむ。
- 疲れ切って泥のように眠る。
これらは実際の収容バスでよく見られる光景です。そこにあるのは「敗者の護送」ではなく、「限界まで挑んだランナーたちの休息所」としての機能です。過度に恐れる必要はありません。
悔しさを次回の完走につなげるメンタルセット
DNF直後は感情が揺れ動くものですが、その悔しさを単なる「嫌な思い出」で終わらせてはいけません。それを「データ」として扱うことで、DNFは強力な学習機会に変わります。
感情が落ち着いたら、以下の点を冷静に振り返ってみてください。
- 原因の特定
- 練習不足だったのか、ペース配分のミスか、補給の失敗か、あるいは不可抗力の故障か。
- 対策の立案
- 次回同じ失敗をしないために、トレーニングや準備をどう変えるか。
スポーツ心理学の研究においても、逆境や失敗からの回復力(レジリエンス)が高いアスリートほど、失敗を否定せず、成長のプロセスとして意味づけを行う傾向があるとされています(Galli & Vealey 2008)。 「今回は自分の身体の弱点を知るためのレースだった」と割り切りましょう。
そして何より、フルマラソンという過酷な競技にエントリーし、スタートラインに立ったこと自体が、一般人口のほんの一握りしか経験しない偉大な挑戦です。結果はどうあれ、その勇気ある一歩を踏み出した自分自身を、まずは十分にいたわってあげてください。
関門・制限時間に引っかからないための事前対策

ここまでは「もしもの時」の話をしてきましたが、最善のシナリオは当然、制限時間内に笑顔でフィニッシュすることです。
制限時間ギリギリの戦いになることが予想されるランナーにとって、体力以上に重要なのが「情報戦」です。ここでは、関門を確実にクリアするための具体的かつ戦略的な事前準備を解説します。
大会の「関門閉鎖時刻」と「高低差」をリスト化しておく
マラソン当日は疲労で計算能力が著しく低下します。「キロ〇分で走れば大丈夫」と頭で考えていても、後半になると計算ができなくなり、気づけば関門時刻が迫っているという事態に陥りがちです。
これを防ぐために、事前に以下の情報を整理した「ペース配分表(ペースチャート)」を作成しておくことを強く推奨します。
- 各関門の閉鎖時刻
- 絶対的なデッドラインです。
- 通過目標時刻
- 閉鎖時刻の5〜10分前の時間を設定します。トイレ休憩や給水トラブルへのバッファ(余裕)です。
- コースの高低差
- 登り坂がある区間はペースが落ちる前提で計算します。
スマホのアラーム機能を活用する
スマホを持って走るランナーにおすすめなのが、アラームの活用です。単に時間を知らせるだけでなく、アラームのラベル(タイトル)機能をメモ代わりに使います。
- 設定例:「10:30 第3関門(15 km)まであと20分!」
- 効果:音楽を聴いていてペースダウンに気づかない時でも、強制的に時間を意識させることができます。
ギリギリのランナーこそ「ネットタイム」ではなく「グロスタイム」を意識せよ
初心者ランナーが最も陥りやすい罠が、2つのタイムの混同です。
- グロスタイム(Gross Time)
- 号砲が鳴った瞬間からの経過時間。公式記録や関門閉鎖時刻の基準となる。
- ネットタイム(Net Time)
- 自分がスタートラインをまたいだ瞬間からの経過時間。
参加者が数万人規模の都市型マラソンでは、後方のブロックからスタートする場合、号砲が鳴ってから実際にスタートラインを通過するまでに20分〜30分かかることも珍しくありません。
関門は「あなた」を待ってくれない
関門の閉鎖時刻は、すべて「グロスタイム」で管理されます。 もしあなたの時計(ネットタイム)が「関門まであと10分ある」と示していても、スタートロスが20分あれば、公式時計ではとっくに関門時刻を過ぎており、アウトになります。 完走が危ぶまれるランナーほど、自分の腕時計の計測タイムではなく、大会公式の時計や号砲からの時間を基準に行動する必要があります。
ゴールを目標にせず、目に見えるゴールを設ける
「42.195 km先のゴール」だけを目標に走ると、疲労困憊の30 km地点などで「あと12 kmもある」という事実に精神が圧倒され、身体が動かなくなることがあります。
このような状況では、遠すぎる最終目標ではなく、「目に見える近い目標」を設定し、それを一つずつクリアしていく手法が有効です。この効果は心理学的にも実証されており、短期的な目標達成を積み重ねることで自己効力感(やればできるという自信)が維持され、パフォーマンスの低下を防げるとされています(Bandura & Schunk 1981)。
具体的な実践方法
漠然と走るのではなく、視界に入っている具体的な対象物を「仮のゴール」に設定します。
- 「あの信号機までは歩かずに走ろう」
- 「次の給水所までは頑張ろう」
- 「前のランナーの背中に追いつこう」
実は、これはエリートランナーも苦しい場面で実践しているメンタルテクニックです。 関門ギリギリの場面では、「次の関門」すら遠く感じることがあります。そんな時こそ、「目の前の電柱」という極小のゴールを積み重ねてください。その結果として、気づけば関門を突破できているはずです。
まとめ:マラソンの関門・制限時間に間に合わない時の対策と途中棄権の心得

本記事で繰り返しお伝えしてきた通り、マラソンにおける途中棄権(DNF)は、決して「恥ずべき敗走」ではありません。それは、過酷な環境下で自身の生命と安全を守るために下される、高度なリスクマネジメントの一つです。
関門閉鎖やリタイア後の環境は、想像以上に過酷な場合があります。低体温症リスクや、収容バス待ちのタイムラグは、事前の知識と装備がなければ深刻な事態を招きかねません。
最後に、安心してスタートラインに立ち、そして無事に家へ帰るための重要ポイントを整理します。
- 関門時刻とグロスタイムの把握
- 自分の腕時計(ネットタイム)ではなく、号砲からの経過時間(グロスタイム)を基準に行動計画を立ててください。
- 生存戦略キットの携帯
- 小銭・ICカード・サバイバルシート(またはゴミ袋)を必ず身につけてください。
- 勇気ある撤退の決断
- 激しい震えが止まらない、意識が朦朧とするといったサインが出たら、躊躇なくスタッフに助けを求め、バスに乗ってください。
もし今回、関門に間に合わなかったとしても、正しい手順で安全に帰宅し、原因を分析できれば、あなたは以前より強く、賢いランナーになっています。次のレースで最高の笑顔でフィニッシュするために、まずは「無事に帰ること」を最優先にしてください。
引用・参考文献
- Bandura A & Schunk DH. 1981. Cultivating competence, self-efficacy, and intrinsic interest through proximal self-motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 41(3), 586-598. doi: 10.1037/0022-3514.41.3.586
- Castellani JW, Young AJ, Ducharme MB, Giesbrecht GG, Glickman E & Sallis RE. 2006. American College of Sports Medicine position stand: prevention of cold injuries during exercise. Medicine and Science in Sports and Exercise, 38(11), 2012-2029. doi: 10.1249/01.mss.0000241228.23063.1f
- Cheuvront SN, Kenefick RW, Montain SJ & Sawka MN. 2010. Mechanisms of aerobic performance impairment with heat stress and dehydration. Journal of Applied Physiology, 109(6), 1989-1995. doi: 10.1152/japplphysiol.00367.2010
- Galli N & Vealey RS. 2008. “Bouncing back” from adversity of athletes: A study of resilience in sport. The Sport Psychologist, 22(3), 316-335. doi: 10.1123/tsp.22.3.316
- Kim JH, Malhotra R, Chiampas G, d’Hemecourt P, Troyanos C, Cianca J, … & Baggish AL. 2012. Cardiac arrest during long-distance running races. New England Journal of Medicine, 366(2), 130-140. doi: 10.1056/NEJMoa1106468
- Roberts WO. 2007. Exertional heat stroke during a cool weather marathon: a case study. Medicine and Science in Sports and Exercise, 39(10), 1705-1705. doi: 10.1249/mss.0b013e318158e92f