正月の国民的行事である箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)の中継を見ていると、他のチームとは異なる特徴を持つ集団が走っていることに気づくでしょう。彼らは、各走者がそれぞれ異なる大学のユニフォームを着用していながら、白地の共通の襷(たすき)をつないでいます (日本テレビ 2025)。 観戦者の多くが、彼らの正体や選考基準、そして順位や記録の扱いを疑問に思うでしょう。
彼らは「関東学生連合(旧称:関東学連選抜)」と呼ばれ、本戦出場権を逃した大学の中から、予選会で優秀な成績を収めた選手によって編成される混成チームです (関東学生陸上競技連盟 2024a)。第100回記念大会(2024年)では参加枠の変更に伴い編成されませんでしたが、第101回大会(2025年)では再び編成されています (月陸Online 2024)。
関東学生連合は「オープン参加」という規定であり、チームとしての順位は付かず、翌年のシード権も獲得できません (関東学生陸上競技連盟 2024b)。また、個人が区間最高タイムを記録しても、それは公式の「区間賞」ではなく、あくまで「参考記録」として扱われます (Engate Media 2025)。
本記事では、関東学生連合とは何であり、なぜ設立されたのかという基礎知識から、順位がつかない理由、チームメンバーの選抜方法、そして記録に残らない彼らが箱根路を走る意義について、公式な競技規則や過去のデータに基づき徹底解説します。
この記事の対象読者
- 箱根駅伝をテレビ観戦しており、学生連合チームの仕組みやルールを正確に知りたい方
- 「なぜ順位がつかないのか」「なぜユニフォームがバラバラなのか」という疑問を持つ方
- 過去の学生連合チームの成績や、選考プロセスの詳細な事実に興味がある方
この記事を読むと分かること
- 関東学生連合の定義:予選会敗退校から選抜されるチームの成り立ちと、第101回大会での復活について
- 記録の扱い:「オープン参加」の具体的なルールと、記録が「参考記録」となる理由
- 選考基準:10月の予選会タイムに基づく選抜プロセスと「1校1名」の原則
- 歴史と実績:過去に「幻の区間賞」や「総合4位相当」を記録した際の実例
箱根駅伝における「関東学生連合(学連選抜)」の定義と目的

関東学生連合(以下、学生連合)は、箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)の本戦出場権を獲得できなかった大学の選手によって構成される混成チームです。第 79 回大会( 2003 年)に「関東学連選抜」として初めて編成され、第 91 回大会( 2015 年)より現在の「関東学生連合」へと名称が変更されました(関東学生陸上競技連盟 2024a)。
このチームが編成される主要な目的は、関東地区全体の学生長距離界の競技力向上(強化)と、予選会で敗退した大学の選手にも本戦出場の機会を与えること(救済)にあります。特定の強豪校だけでなく、多くの大学の選手に箱根路を経験させることで、将来的な陸上競技界の発展に寄与する意図が含まれています(読売新聞オンライン 2024)。なお、あくまで教育的な側面と個人の強化を重視するため、順位がつかない「オープン参加」という形式がとられています。
予選会敗退校から選抜される合同チームの仕組み
学生連合チームは、毎年 10 月中旬に行われる箱根駅伝予選会の結果に基づいて編成されます。選抜の対象となるのは、予選会で本戦出場権(上位 10 校など)を逃した大学に所属する選手です。
具体的な選考プロセスは、予選会(ハーフマラソン)における個人の記録(タイム)が重視されますが、単純なタイム順ではありません。多くの大学に機会を均等に与えるため、原則として「 1 校 1 名」までという選出規定が設けられています(関東学生陸上競技連盟 2024b)。また、過去の本戦出走経験の有無や、外国人留学生は選出対象外とするといった規定も存在し、年度によって細かな選考基準が調整される場合があります。これにより、チームは多様なバックグラウンドを持つ選手たちによる「連合軍」として組織されます。
着用するユニフォームと襷(たすき)の規定
視覚的な面において、学生連合チームは他の出場大学と明確に異なる特徴を持っています。 競技規則により、学生連合の各選手は、自身の「所属大学のユニフォーム」を着用して出走することが定められています(日本テレビ 2024)。そのため、中継所でのタスキリレーや走行中の映像において、区間ごとに全く異なるデザインや色のユニフォームが登場することになります。これは、選手が選抜チームの一員であると同時に、母校の代表としての誇り(プライド)を背負って走ることを尊重するための措置です。
一方で、駅伝の象徴である「襷(たすき)」については、チーム共通のものを使用します。デザインは年度やスポンサー規定により微細な変更があるものの、基本的には白地をベースに赤色などの縁取りがなされ、「関東学生連合」の文字や関東学生陸上競技連盟のロゴマーク(KGRR)が配されたものが使用されます(月陸Online 2023)。バラバラのユニフォームを纏った選手たちが、一本の共通の襷をつなぐ姿は、学生連合ならではの光景といえます。
なぜ順位がつかないのか?「オープン参加」と参考記録のルール

関東学生連合は、大学対抗の正規チームではなく、選抜形式の混成チームであるため、競技規則上「オープン参加」という扱いになります。オープン参加とは、競技には参加してタイムも計測されるものの、公式な順位付けの対象からは除外される出場形態を指します(Sporting News 2025)。
この規定により、学生連合チームの成績はあくまで「参考」として扱われ、公式記録集などでは順位の欄に「OP」や空白、あるいは「オープン」と記載されます。ただし、チームの総合タイムや区間タイム自体は計測されており、実力がどの程度の位置にあるかを把握するために、「参考順位(〇〇位相当)」という形で情報が提供されることが通例となっています(Sporting News 2025)。
チーム順位とシード権に関する規定
箱根駅伝における最大の目標の一つに、翌年の出場権が無条件で与えられる「シード権(総合 10 位以内)」の獲得があります。しかし、関東学生連合はオープン参加であるため、仮に総合 10 位以内のタイムでゴールしたとしても、シード権を獲得することはできません(Sporting News 2025)。
例えば、学生連合が全チーム中で 10 番目のタイムでゴールし、正規の大学チームが 11 番目でゴールした場合、シード権を獲得するのは 11 番目の大学チームとなります。この場合、学生連合は「幻の 10 位」となり、記録上は「 10 位相当」として扱われますが、公式な順位や次年度の出場権には一切影響を及ぼしません。この規定は、あくまで箱根駅伝が「大学単位の対抗戦」であることを前提としているためです(VictorySportsNews 2019)。
個人の区間記録と「幻の区間賞」について
チーム成績と同様に、個人の記録についても特有の規定が存在します。学生連合の選手が記録したタイムは、公認の計測環境で出されたものであっても、競技規則上は「参考記録」として扱われます(Sporting News 2025)。
これが最も大きく影響するのは、その区間で最も速いタイムを出した選手に贈られる「区間賞」の扱いです。規定により、学生連合の選手が全出場選手の中で最も速いタイムで走ったとしても、公式な区間賞としては認定されません。その場合、正規の参加大学の中で最も速かった選手(全体で 2 番目のタイムの選手)が区間賞を獲得することになります。
この現象はメディアやファンの間で「幻の区間賞」と呼ばれています。過去の大会では、実際に区間トップ相当のタイムを記録しながらも受賞対象とならなかった事例が存在し、記録の公式性を巡って議論の対象となることもありますが、現行のルールでは一貫して参考記録として処理されています。
メンバー選考基準:「1校1名」の原則と予選会タイム

関東学生連合チームのメンバー選考は、恣意的な推薦ではなく、記録(タイム)と明確な規定に基づいて厳格に行われます。選考のプロセスは透明性が高く、基本的には毎年 10 月に行われる予選会の結果が直結するシステムとなっています。
10月の予選会結果に基づく選抜方法
関東学生連合のメンバーに選出されるための最大の指標は、毎年 10 月中旬に開催される「箱根駅伝予選会(ハーフマラソン)」における個人の走破タイムです。
選考対象となるのは、予選会に出場し、かつ本戦出場権(上位 10 校など)を獲得できなかった大学の選手です。この中から、ハーフマラソンの記録が上位の選手が候補としてリストアップされます(関東学生陸上競技連盟 2024)。
また、単に予選会で速いタイムを出すだけでなく、トラックでの基礎走力を証明する「 10,000 m の公認記録」を選考の参考とする場合や、直近のコンディション、過去の本戦出場回数(選抜チームでの出場は通算 2 回までとする規定など)が考慮されることもあります(月陸Online 2023)。最終的には関東学生陸上競技連盟の強化委員会によって、本戦を走る 16 名のエントリーメンバーが決定されます。
特定の大学への偏りを防ぐ「1校1名」のルール
関東学生連合の編成において最も特徴的かつ厳格なルールが、「 1 校 1 名」の選出原則です。
予選会で敗退した大学の中には、本戦出場校に匹敵する実力を持つ選手を複数名擁している大学も存在します。しかし、仮にA大学の選手が個人タイムランキングで上位を独占したとしても、関東学生連合に選ばれるのはA大学から最上位の 1 名のみです(JAAF 2024)。これは、特定の大学の選手だけでチームが固まることを防ぎ、可能な限り多くの大学に箱根駅伝出場の門戸を開くための措置です。
さらに、外国人留学生については選出対象外とする規定が存在します(関東学生陸上競技連盟 2024)。これは、関東学生連合があくまで個人の育成と、日本人学生競技者の強化を主眼に置いているためです。これらの規定により、関東学生連合は多種多様な大学のユニフォームが混在する、真の意味での「連合チーム」となります。
歴代最高順位は?学生連合チームの実力を検証

学生連合チームは公式順位がつかない「オープン参加」ですが、計測された合計タイムを正規の出場校と比較することで、その実力を客観的に評価することが可能です。歴代の記録を検証すると、学生連合は単なる記念参加のレベルに留まらず、シード権争い( 10 位以内)や上位争いに匹敵する競技力を見せた大会が存在します。
「幻の総合 4 位」相当だった 2008 年大会の記録
学生連合(当時は関東学連選抜)の歴史において、最も高いパフォーマンスを発揮したとされるのが、第 84 回大会( 2008 年)です。この大会で、関東学連選抜チームは往路・復路ともに安定した走りを見せ、総合タイム 11 時間 12 分 25 秒で大手町のゴールテープを切りました(箱根駅伝公式Webサイト n.d.a)。
このタイムは、同大会で総合優勝を果たした駒澤大学( 11 時間 03 分 12 秒)、2 位の早稲田大学、3 位の中央学院大学に次ぐものでした。公式な順位として認定された総合 4 位の関東学院大学の記録( 11 時間 13 分 37 秒)を 1 分以上上回っていたため、もし順位がついていれば「総合 4 位」に相当する好成績でした(箱根駅伝公式Webサイト n.d.a)。
この快走は、予選会敗退校の選手であっても、トップレベルの大学と互角に渡り合えることを証明した事例として、現在でも駅伝ファンの間で語り草となっています。
学生連合から世界へ羽ばたいた主な選手
関東学生連合は、将来有望な選手に経験を積ませるという「育成」の役割も担っており、このチームでの出走を経て、後に世界大会で活躍するに至った選手も存在します。
その代表例が、公務員ランナーからプロランナーへと転向し、世界陸上競技選手権大会などの日本代表として活躍した川内優輝選手(学習院大学卒)です。川内選手は学習院大学時代、箱根駅伝のチーム出場は叶いませんでしたが、関東学連選抜のメンバーとして第 83 回大会( 2007 年)と第 85 回大会( 2009 年)の 2 度、箱根路を走りました(JAAF 2019)。特に 4 年時の第 85 回大会では 6 区(山下り)を担当し、区間 3 位相当の好走を見せました。
このように、所属大学が予選会で敗退しても、個人の実力があれば箱根駅伝という大舞台を経験できる学生連合のシステムは、日本陸上界の底上げに寄与する重要な機能を果たしています(月陸Online 2024)。
「学生連合は廃止された」という噂の真相と今後の動向

インターネット上やSNSで「学生連合は廃止された」という噂を目にすることがありますが、結論から述べると、この情報は正確ではありません。第101回大会(2025年)において関東学生連合チームは編成されており、制度自体は存続しています(月陸Online 2024a)。
なぜこのような誤解が広まったのか、その背景には第100回記念大会における特例措置と、それに伴う議論が存在しました。
第100回大会(2024年)で編成されなかった理由
「廃止説」の根源は、第100回箱根駅伝(2024年)において、史上初めて学生連合チームが編成されなかった事実にあります。 この大会は第100回の記念大会であり、例年よりも出場枠が3校多い「23校」に増枠されました。また、参加資格も関東地区限定から全国の大学へと開放されるという歴史的な変更が行われました(月陸Online 2024b)。
この「出場枠の拡大」と引き換えにする形で、関東学生連合チームの編成は見送られました。主催者側は、より多くの単独チームに出場機会を与えるための措置としましたが、この決定プロセスを巡っては、学生側から十分な説明や議論の場を求める署名活動が行われるなど、一定の波紋(論争)を呼びました(東洋経済オンライン 2023)。結果として、この「1年限定の欠場」が、「学生連合は廃止された」という誤った情報の拡散につながったと考えられます。
第101回大会以降の存続と関東学連の方針
第100回大会を経て、第101回大会(2025年)からは、従来の「出場20校+関東学生連合(オープン参加)」という通常開催の形式に戻っています(日本テレビ 2025)。
関東学生陸上競技連盟は、第101回大会に向けた予選会の結果に基づき、2年ぶりとなる関東学生連合チームのメンバーを発表しており、制度としての学生連合は完全に復活しています(月陸Online 2024a)。 今後の方針としては、第99回大会以前のスタイルを基本路線としつつ、あくまで「各大学が単独チームでの出場を目指すこと」を推奨する立場をとっています。学生連合は、その過程にある選手や大学への「教育と経験の還元」という役割を担い続けることになります。
まとめ:箱根駅伝の学生連合は記録よりも記憶に残るチーム

本記事で解説してきた通り、箱根駅伝における関東学生連合は、単なる「数合わせ」や「寄せ集め」のチームではありません。彼らは厳しい予選会において、個人成績で上位に入った選手たちであり、各大学のエース級が集結した実力あるエリート集団です(関東学生陸上競技連盟 2024)。
順位がつかない「オープン参加」という規定上、彼らの記録は公式な順位表には残りません。しかし、過去に総合 4 位相当のタイムを記録した事実や、幻の区間賞といった数々のドラマは、視聴者の記憶に深く刻まれています(月陸Online 2024)。所属大学のユニフォームはバラバラでも、白地の襷(たすき)を繋ぐその姿は、大学の垣根を超えた学生スポーツの純粋な熱量を体現しています。
第 101 回大会( 2025 年)以降も、彼らは箱根路を走ります。観戦の際は、順位がつかない彼らの「参考記録」にぜひ注目してください。そこには、記録には残らないものの、正規の大学チームに勝るとも劣らない「本物の強さ」があるはずです。
引用・参考文献
- Engate Media. 2025. 【陸上】箱根駅伝「学生連合」とは?メンバーの決め方や最高順位などを紹介!. Engate Media. https://media.engate.jp/sports-market/athletics_hakoneekiden_studentunion/
- JAAF. 2019. 日本代表選手プロフィール 川内 優輝. 日本陸上競技連盟公式サイト. https://www.jaaf.or.jp/athletes/profile/yuki_kawauchi/
- JAAF. 2024. 第 101 回東京箱根間往復大学駅伝競走 開催要項. 日本陸上競技連盟. https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1865/
- Sporting News. 2025. 【箱根駅伝】オープン参加(OP)の関東学生連合チームとは? 2025年大会の出場は?. Sporting News. https://www.sportingnews.com/jp/athletics/news/hakone-ekiden-kanto-collegeate-selected-team/jxmynprnmxnmybhuymuczbu3
- VictorySportsNews. 2019. 箱根駅伝の「関東インカレ枠」という謎のシステムと関東学生連合の是非. VICTORY. https://victorysportsnews.com/articles/7295
- 関東学生陸上競技連盟. 2024a. 箱根駅伝の歴史・変遷. 関東学生陸上競技連盟公式サイト.
- 関東学生陸上競技連盟. 2024b. 第 101 回東京箱根間往復大学駅伝競走 開催要項. 関東学生陸上競技連盟公式サイト.
- 関東学生陸上競技連盟. 2024c. 第 101 回東京箱根間往復大学駅伝競走 競技実施要項. 関東学生陸上競技連盟公式サイト.
- 月陸Online. 2023. 【箱根駅伝】関東学生連合のエントリーメンバー16名が決定!. 月刊陸上競技. https://www.rikujyokyogi.co.jp/archives/117565
- 月陸Online. 2024a. 箱根駅伝の関東学生連合チーム発表!筑波大・小山洋生、東大院・古川大晃ら16人選出. 月刊陸上競技. https://www.rikujyokyogi.co.jp/archives/150163
- 月陸Online. 2024b. 第101回箱根駅伝の出場枠は20校+関東学生連合に!第99回大会までの通常開催へ. 月刊陸上競技. https://www.rikujyokyogi.co.jp/archives/135269
- 月陸Online. 2024c. 学生連合の意義と歴史. 月刊陸上競技.
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- 日本テレビ. 2024. 第 100 回箱根駅伝 大会要項・規定. 箱根駅伝番組公式サイト.
- 日本テレビ. 2025. 第101回箱根駅伝 出場校一覧 関東学生連合. 箱根駅伝番組公式サイト. https://www.ntv.co.jp/hakone/backnumber/101/team/gakuren.html
- 箱根駅伝公式Webサイト. n.d. 過去の記録 第 84 回大会( 2008 年). 東京箱根間往復大学駅伝競走公式サイト. https://www.hakone-ekiden.jp/record/past_race_pdf/84_sogo.pdf
- 読売新聞オンライン. 2024. 箱根駅伝「関東学生連合」とは…オープン参加で順位つかず. 読売新聞.